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最高裁判所第三小法廷 昭和46年(あ)989号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人八十島幹二の上告趣意は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。また、記録を調べても、同法四一一条を適用すべきものとは認められない。(なお、労働基準法四二条、四五条、昭和四五年九月二八日労働省令第二一号による改正前の労働安全衛生規則六三条一項により使用者が講ずべき危害防止措置の対象たる当該動力伝導装置等は、当該労働者が作業上接触する危険があるかぎり、その労働者の使用者が所有または管理するものにかぎられるものではなく、また、その労働者をしてその作業場において直接これを取り扱わせるものであると否とを問わないものと解するのを相当とする。)

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(関根小郷 田中二郎 下村三郎 天野武一 坂本吉勝)

弁護人八十島幹二の上告趣意

原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令の違背(四一一条一号)があり、これを破棄しないことは著しく正義に反する。

一、労働基準法四二条所定の「使用者」の解釈の誤り

原判決は、法四二条の「使用者」は、危害防止措置を講ずべき機械、器具その他の設備を、その使用する労働者をして使用せしめる者であると否とを問わないとしている。しかし、右使用者は、当該設備を自己の使用する労働者に生産用具として使用せしめる者に限定される。

二、労働安全衛生規則六三条一項所定「床面」について

右「床面」は、本件足場を含まないものと解すべきである。右床面は当該設備を生産用具として行なわれる作業にとつての作業床でなければならない。ところが、原判決、はどのような作業にとつての作業床であるかを検討せず、慢然と本件足場は床面であるから、規則六三条一項所定の「床面」に該当すると判示している。

右二点で、原判決は法令に違背し、被告人を有罪としている。被告人は、無罪なのであるから、原判決を破棄しないことは、著しく正義に反するというべきである。

弁護人八十島幹二の上告趣意(補充)

一、足場板は「床面」ではない。

原判決は、『本件足場板が、規則六三条一項にいわゆる「床面」に該当することは、規則一〇八条の三の一項の規定に照らして明らかである。』としている。その規則一〇八条三の規定は、足場に設置すべき作業床に関する規定である。規則六三条一項の床面は、当該機械を設置した建物の一部分を指称するものである。その床面の概念の範囲に、建物の構成部分に含まれる余地のない足場=仮設の支持物を含ましめることは、刑事法の解決は許されない。

二、規則六三条一項の措置を講ずべき義務者について、原判決は、規則一〇九条の二の一項六号、同一二七条の八同一六三条の七等の規定が置かれていることから、法四二条規則六三条一項の義務者は当該機械をその使用する労働者にその作業の際に使用せしめる使用者に限定されないという。だが、原判決挙示の規則一〇九条の二等の規定は、当該作業が一般に危険を含む特定の作業につき設けられた規定であること、規定自体から明らかである。それらの諸規定があることは規則六三条の解釈に際し、規定の語句の意味を遠く離れた解釈を許容すべき根拠とはなし難い。規則六三条は、当該動力伝導装置の車軸を設置した工場の通常の作業と通常の運用に関する規定ではない。もし、そのような作業を規制する必要があれば、原判決挙示の規則一〇九条の二の一項六号のような規定が別に制定さるべきものである。

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